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いい姿勢~意識と無意識 [身体の使い方]

 昨年の5月に書いた記事「橈骨と尺骨」についてあやさんという方からご質問をいただきました。ありがとうございます。


 コメント欄にお返事を書いていたら思いのほか長文になってしまったので、本日最新の記事としてUPすることにしました。

 まずはあやさんのご質問からご紹介します。

「初めまして
経絡の話から興味深い内容でした。肘周りの靱帯の緩みが肩こりに繋がるとの事で、検索からこちらに辿り着きました。よく「手は小指」と言われる理由は、こういった骨組みの仕組みだからなんですね。詳しく教えて頂いて嬉しいです。では毎日の親指の酷使を防ぐとしたら、小指を添える・肘から先を回外すれば疲労は取れるのでしょうか?暁骨と尺骨の間が開いてしまっている場合はどんな使い方が適切ですか?宜しかったら教えて下さいm(_ _)m 」



 まず、どちらかで「肘周りの靱帯の緩みが肩こりに繋がる」という情報をお聞きになったようですが、その情報については、私としてはなんとも言えません。結果としてそういう相関関係になる場合はあるかもしれませんが、原因と結果という関係性では無いと思います。



 では腕を上手に使う方法を、スポーツを例にとってお話してみましょう。

 棒を使うスポーツ~剣道、ゴルフ、野球などに共通しているのは、力を抜いて行うスウィングと、力を入れるインパクトの瞬間という2種類の異なった動作を組み合わせなければならないという点です。(実は究極的にはその他のスポーツでも同じことが言えるのですが・・・)

 うまく力を抜かなければ、身体全体がしなやかに連動したスウィングを行うことはできません。ためしに筋肉を硬くしたままスウィングをしてみればよくわかります。

 一方で打撃の瞬間まで、力が抜けたままの状態でボールや相手に衝撃を与えようとしても、力は自分の体の柔らかさに吸収されてしまって強い力を伝えるのが難しくなります。そのためこのインパクトの瞬間には、力のベクトル(ボールの飛ぶ方向、相手の体の急所の方向)以外に力が分散しないように一瞬の間にベクトル方向に筋肉を最大限に緊張させて力を収斂させていきます。インパクトのポイントではいわば全身のしなやかさを犠牲にしてでもベクトルのポイントに力を集めるために全身が硬くなって奉仕するのです。

 「うっ」とか「ふん」とか思わず声が出たり、意識的に「メーン」とか「おりゃー」とか声を出したり、スポーツによってやり方は違いますが、いわばスイッチをいれるように力を入れる瞬間がこのインパクトポイントです。


 
 重要なのは、このインパクトポイントというのはスポーツの場面でも一瞬でしかないということです。ここぞというポイントに力を集中させるためには、タメををつくってうまく力を抜いておかなければなりません。はじめから力が入ってしまっていたら、いざという瞬間に力が集まらないのです。スイッチを切っておかなければ、スイッチを入れることはできません。

 これが重要な一つめのポイントです。①



 ところが力を抜こうとしても抜けなくなってしまう時があります。野球ならば、胸元を掠めるような危険な球が来たりすると無意識に力が入って抜けなくなったりします。剣道なら、どう考えても勝てない強い相手と向かい合ってしまったりするとはじめからすくんで本来の力すらだせなくなったりします。こんなときに力を抜こうとするとますますダメになりがちです。

 うまく力が抜けている時は無意識がコントロールしているので全身が均等にリラックスして、しかも全身がそれぞれが最小限の力で仕事をしています。力を抜こうとすると、意識が向かったポイントのみが完全に力が抜けて、そのために意識が向かっていないどこかが犠牲になってがんばっています。



 つまり集中することが得意な意識は、インパクトポイントでスイッチを入れるのが得意なのですが、全身を均等にコントロールするのは不得意であり、拡散が得意な無意識は、身体全体をしなやかに連動させる動きは得意なのですが、一点に力集中させることができません。東洋思想では、前者を陰、後者を陽といいます。陰が陽を生み、陽が陰を生むと考えます。

  
 ただし私たちは意識としてしか存在できません。意識がなくなれば、それこそ意識不明の状態になってしまいます。したがってスポーツでは意識を使って無意識をコントロールしなければなりません。そう考えるととても難しいことのように思えてきますが、実際はみんな楽しくスポーツをしていることからわかるように、それほど難しいことではありません。

 スポーツではそれをフォームといいます。いいフォームはいいプレイを生みだします。いいフォームになったときには、無心になれて体が勝手にうごくようなプレイができたりします。つまりそれこそが意識を使って無意識をコントロールしている状態なわけです。

 これが重要な二つめのポイントです。②



 

 では話を実生活に戻します。


 まず実生活でどんなふうに腕を使うべきなのかを考えてみましょう。

 ポイント①でお話したように、インパクトポイントというのはスポーツの場面でもここぞという一瞬でしかありません。ですからスポーツを上手くやるためには、できるだけ力を抜いて身体全体がしなやかに連動した状態でい続けることが大事です。ほとんどの時間はいざという瞬間が来るまでためをつくって動いているわけです。

 実生活でも同じではないでしょうか?

 実生活でここぞという一瞬とは、物が落ちてきて腕で振り払う時とか、重いものをえいっと持ち上げるときなどですから、たいていの方の生活ではスポーツの場面よりも頻度が少ないですよね。

 つまり実生活では、ほとんど常にスポーツの時の「できるだけ力を抜いて身体全体がしなやかに連動した状態」でい続けることが大事なはずなのです。


 そのためにはポイント②でお話したように、いいフォームでいることが大切です。実生活では、これはいい姿勢とよばれます。

 ところがここで間違って思い込んでいる方が非常に多いのが、いい姿勢になるために意識的に力を入れてがんばっていなければならないという俗説です。軍隊のように命令が出るまで微動だにしてはならないという目的(それがここぞという瞬間~インパクトポイントなのですから)があるなら別ですが、バレリーナのようにいつでも動けるしなやかな姿勢(フォーム)でいるなら、いい姿勢をインパクトポイントにしてはいけません。


 さて、このいい姿勢についてお話を始めると、また大変な長文になってしまいます。これはまた別の機会にしますが、暁骨と尺骨の仕組みだけに注目しすぎると、うまくいかないかもしれません。大切なのは身体全体がしなやかに連動した状態なので、腕の力を抜こうと意識を強く集中すれば、意識の仕組みが身体全体のしなやかさを犠牲にし始めます。暁骨と尺骨の仕組みはいわばフォームのごく一部です。大切な一部であり、暁骨まわりの筋肉をあまりつかわない動きをこころがけることは大切ですが、こだわりはじめて、どう動かすかに集中すると力を入れていくことになってしまいます。整体では暁骨の位置の歪みを整えますが、うまくいけば力を抜いただけでいい位置に収まります。それを一般の方がご自身で正確にやるためには、歪みを矯正するとともに力を抜かなければならずそばに判っている人がいて指導してくれないとむずかしいと思います。肩こりや腕の疲れが激しい方にとって、もっと大切なのは身体全体の姿勢~フォームです。


あやさんのご質問にもどります。
「では毎日の親指の酷使を防ぐとしたら、小指を添える・肘から先を回外すれば疲労は取れるのでしょうか?」
小指を添えるのはいいと思います。肘から先は回外しないほうがよいでしょう。回外や回内は意識しないほうが無難です。回外や回内は指側、肘側をケースバイケースで使い分けます。ちょっと文字情報ではうまく伝える自信がありません。


「暁骨と尺骨の間が開いてしまっている場合はどんな使い方が適切ですか?宜しかったら教えて下さいm(_ _)m 」
どういう状態なのかこれだけではわかりませんが、おそらく暁骨に無意識に力が入ってしまって抜けなくなっているのではないかと思います。そうだとすれば、以下のポイントをチェックしてみてください。


 肩こりの人に非常に多い癖が肩の力を抜こうとする動作です。くりかえし肩をだらんとしようとしたり、肩甲骨を背中に寄せ集めておこうとしたりします。時には肩こり予防法などとして雑誌などに紹介されていたりする動作ですが・・・。肩の力を抜くために意識を集中すると、肩の力を抜くという力をどこかに入れることになります。つまり肩の力が抜けているという瞬間~インパクトポイントをつくるために意識を集中するので、その瞬間~インパクトポイントではとても気持がよくなります。しかし意識はその瞬間でい続けることはできません。実生活ではほかにもやることがたくさんありますよね。しかも犠牲になっているところ~暁骨まわり、背中、肩甲骨まわり、腰、首などがあとで痛みをだしてきたりします。肩をゆるませるために犠牲になって意識がむいていない場所は、そのときはなんともありませんが、痛みというサインをつかって、意識を自分に向かわせようとします。

 そもそも肩こり自体が、どこかを楽にするために犠牲になっているから起きている可能性が高いです。姿勢が悪いので体を肩や腕の力で支えていたりします。多いケースは立っている時はカカト重心で、座っているときはおしりの後ろ側で座っています。足のリラックス、股関節のリラックスのために腕が犠牲になっています。腕を前に伸ばしていないと立っていられません。腕を前に伸ばしていないと机に向かって座っていられません。足を投げ出していることがリラックスだと思っています。それは足のリラックスで、腰や腹筋、腕、首の犠牲を必要とします。

 うまく力が抜けている時は無意識がコントロールしているので全身が均等にリラックスして、しかも全身がそれぞれが最小限の力で仕事をしています。力が抜けきっているところを探して適度にしっかりさせて、全体が姿勢のいいフォームをめざしてください。ほとんどの方が足(とくにつま先の握力)と呼吸の筋肉が休みすぎています。(座っている時も足が大切です)最初から美しい姿勢になろうとしないことです。力ずくになってしまいます。インパクトポイントになってしまいます。一人でやるなら瞑想は役に立ちます。自分の身体を無心に見つめてください。フォームがある程度できたら、それ以上こだわらずに意識をフォームからはずします。生活に戻ってください。スポーツと同じです。フォームがくずれたらまた直せばいいのです。その繰り返しでよいのです。いい姿勢で固まろうとしないことです。コリコリになっちゃいます。インパクトポイントになってしまいます。

 適度では満足できない。さらにもっと美しい姿勢を手に入れたい。という方はやはりいい指導者をみつける必要があると思います。


ご参考になればと思います。

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あや

ココアカさん

こんにちは
コメントへの長文の返信どうもありがとうございました。投稿に失敗したと思っており、お返事が遅くなりましたm(_ _)m

前回は「肘下を回外~」って書きましたが、回内の間違いでした。デスクワークだとどうしても腕が内側に巻いてきちゃうので、つい外側に回すとバランスが取れるのでは…と感じてしまいます。

腕やパーツだけにこだわり過ぎず、フォームが崩れたら直す感覚ですね。分かりました☆確かに常に肩を下げる姿勢や肩甲骨を寄せる姿勢を頑張ってしまうと、逆に首や背面がゴチゴチになってしまいます。上半身の力を抜く為には、意識を足に向ける事も大切なんですね。

肘が開く←これは(以下、引用)
手の使いすぎ(特に親指に力を入れたり親指を良く使う動作)によって知らない間に2本の骨が開いていってしまいます。人間の身体は『恒常性』といって身体を常に一定に保とうという働きが備わっています。その為に開いてしまった2本の骨を元に戻そうと働くのですが2本の骨を閉めるものが無いため力こぶの筋肉やその他の筋肉が異常に働いてしまいます。その筋肉の異常緊張が肩の筋肉や首の筋肉につながり肩こりが起こってしまうという訳です。もし思い当たる節のある方は手のひらを天井に向けて3分くらい寝てみてください。何か変化があるかもしれませんね

(以上)
こういった情報でした。普段から携帯メールなどで、どうしても親指を酷使してしまうのでケアしたかったのです。

でも体って面白いですね

長文になりましたが、ありがとうございました。
by あや (2011-04-11 08:57) 

ココアカ

あやさん
お返事ありがとうございます。
 実際は、フォームをつくるのに細かい骨格の使い方があります。いつかどこかで、それらを本格的にくわしくお話してみたいと思いますが、今は毎日マンツーマンで、ご来院の方にのみお話しています。
 現実のカラダは3次元なので、現場では暁骨と尺骨も別々に違う方向に動かしたり回転させたりしてもらったりします。ただ、横に立って文字通り手とり足とりお伝えしても、なかなか長年の癖から抜け出せないことが多いです。自転車に乗れない子どもさんに乗り方を教えるような感じです。
 肘が開くこと(~肘の異常緊張)の対処法に手のひらを天井に向けて3分くらい寝てみることをお勧めした方も、文字で簡単に伝わる方法を工夫されたのかもしれません。悪くない方法だと思います。力を抜いて寝てしまうくらいのつもりでやれば、自然治癒力が働いて、いい方向に骨が動く可能性があります。無意識にまかせて自分の意識は使わないようにします。試してみてください。
by ココアカ (2011-04-14 10:32) 

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